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『キャスター 鈴木ともみのリカレントニュース』第4回

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羽生結弦選手『どんな人生でも、今できる全力、今の自分を貫くことが一番大事』

平昌(ピョンチャン)オリンピックで、66年ぶりに五輪連覇を達成したフィギュアスケート・羽生結弦選手の『金メダル報告』会見を取材しました。
登場するや否や羽生選手は、にこやかな『ユズスマイル』を披露。
会場全体が一足早い爽やかな春の空気に包まれました。

会見の冒頭、66年ぶりの五輪連覇について羽生選手は、
「一言で言うと幸せです。ただ、これはフィギュアスケートの歴史において66年ぶりということで、今から66年前を振り返ってみると、全く違ったスポーツだったとも思います。
写真で見ることしかできないですし、古い映像もなかなか入手することができませんが、 自分自身、スケートを18年間やっていて全く違った競技になっていると思いますし、特にこの4年間は違う競技をしている気になるほど変化が目まぐるしかったので、そういった意味ではすごく重いものになったなと思っています。
また、冬季オリンピックで2連覇ということがまず珍しいことだと思うので、世間の方が思っている価値というものもすごく大きなものになっていて、そういう意味でも、自分の首から下げているものをとても重く感じています」
と今回の金メダルが意味する価値について、率直な感想を述べました。

また、『勝てばいいんだ』ということを優先する海外選手がいるなかで、周りへの感謝の気持ちを忘れない日本人選手たちの姿勢について問われると、羽生選手は、
「もともと日本人が持っていたスポーツへの概念、トレーニングの概念というものは、メンタルを鍛える面では絶対に優れていたと思っています。
そして日本人はその負けん気というものを武器にした選手、僕のような選手がいれば、『勝ち負けは関係ない、自分が納得できるものを』という選手もいます。
逆に言えば、欧米でもマイケル・ジョーダン選手のように、誰に対してもリスペクトをする。
そのリスペクトの心が自分を強くする。
そうおっしゃっていたのがすごく印象に残っています。
もちろん勝ち負けだけを重視する選手もいるかもしれませんが、それはやっぱりその人の性格によると思っています。
心の問題、集中力の問題、そういうことから言えば、僕は性格上すごく追い込まれると強くなって、あまり楽しい気持ちとか、またはリスペクトをしながら感謝をしながらニコニコしながら演技をするというのは向いてないんじゃないかとも思っています」
と、競技者としての自分自身の性格について分析した上で、
「そういった意味では『絶対に勝ってやる』と思った時の方が力が発揮できます。
それは選手の性格次第なので、これから僕がもし指導者になっていって、または伝道師というかいろいろなことを伝える立場になった時に、経験として伝えられることの一つではないかなと思います。
そして日本人の感謝の気持ちというのは、日本人が絶対に持たなきゃいけないものだと思いますし、僕自身もすごく大切にしていることです。
それは競技以外でも、そして競技が終わった後、例えば柔道なんかもそうですけれども、絶対に自分が競技をしていたフィールドに対して挨拶をする。
そして終わった後に、コーチ、家族、そして幸いにもフィギュアスケートはすごく観客の皆さんが応援して下さることを実感できるスポーツなので、そういった方々にも感謝の気持ちを届けなくては、と日本人の誇りとして思っています」
と、アスリートとしての心構えや競技に向かう姿勢、人としてあるべき姿について自身の考えを述べました。

続いてフリーのみではトップの点数を獲得したネイサン・チェン選手が、もしショートプログラムでも失敗せずに羽生選手と同等の点数を出していたら、羽生選手のフリーの演技構成は違っていたのかという質問については、
「ネイサン・チェン選手がノーミスかどうかは関係なく、自分が出来ることをやろうと思っていました。
それはもうその時になってみないとわからないです。
ネイサン・チェン選手がもし、たらればで僕より上になっていた場合は、自分のリミットを更に超えた演技ができたかもしれません。それはわかりません」
と、毅然とした表情で答え、宇野昌磨選手がフリーの演技で最初のジャンプは『羽生選手を追い越そうとしてチャレンジして失敗した』とコメントしたことについて問われると、
「まず、一つ言っておきたいのは、僕はもうあの時点で勝利を確信していたので、彼が4回転ループを本当にきれいに決めていたとしても、まず点差的に負けることはなかったと、まず言っておきます。(会場全体が笑いに包まれる)。
すごい突っ込まれましたし、ファンの方々もあまりよく思ってない方もいらっしゃったようなので、まず前提として。
(宇野選手は)自分を追い抜かそうとは本音では思ってないかもしれないんですけれども、近づきたいって思ってくれる存在。
そして、・・・それが自分の国の代表としている。
それは非常に心強いことだなと思います。
まだ引退する気持ちも全然ないしやることありますけど、ただ、『引退します』って簡単に言っちゃえば、彼に任せられるというか、そういう頼もしさは感じています。
(一方で)、まだもうちょっと・・・人前に出る時に記者会見で寝るとか(笑)、そういうことは学んでもらわなきゃいけないのかなと。(会場全体が笑いに包まれる)。
もうちょっと面倒を見なきゃいけないのかなっていうふうに思っています(笑)」
と、ユーモアを交えながらも、絶対王者としての堂々たる貫録ぶりを見せていました。

そして、私も直接、羽生選手に『2連覇おめでとうございます。日本中を幸せな気持ちにしてくださって、本当にありがとうございます』とお伝えすることができ、羽生選手からも『ありがとうございます』という言葉をいただけました。
続けて次のような質問をしました。

『世界中の名だたる選手が「羽生選手のことを人間性を含めて尊敬している」と発言されていますけれども、その羽生選手の挑戦し続ける力、自分を律する力、また奮起させる力、それらの原動力というのはどこからくるものなのでしょうか?教えてください』
私が質問している間、羽生選手は真っすぐに視線を送りながら、言葉の一つひとつを噛み締めるように頷いていました。
そして、次のように答えてくれました。

「ええとまず、うーん、今、皆さんと話しているこういう時間って自分の中ではスイッチが入りきってなくて。
わりとゆっくり話しているし、『この人ふわふわしてるな』って思われるかもしれないですけど(笑)。
わりと自分の中で、スケートが始まった時だとか、スケート靴を履いて氷に乗った瞬間だとか、スケートのことを考えてアップをしてる時間とか、そういう時は本当に違う人間になってるんじゃないかというぐらい切替えています。
それは自分の精神力であったり、『絶対に勝つんだ』とか『絶対に強くなるんだ』という原動力だと思っていますし、その切替えが上手くいかない時もあるんですけれども、その切替えを絶対にやると決めています。
特にオリンピックは不安要素がいろいろあったし、やれないこともいろいろあったんですけれども、そのなかでやれたのは、そういう自分の中での切替えやメリハリがあったからかなと思います」
と、『絶対に勝つんだ』『絶対に強くなるんだ』という強い意志が原動力となっており、氷上で競技する瞬間に、人間性が変化するくらいの気持ちの切替えやメリハリを意識しているということについて解説してくれました。

そして、人生100年時代、一人の人間として、男性として、羽生選手が進みたい今後の人生や生き方について質問が及ぶと、
「僕からの目線じゃなくて普通の人から見たら、『もう手に入れるものを全て手に入れただろう』と思われる方もいると思うんです。お金も、名誉も、地位も・・・。
でも、僕にとっては(全てを手に入れたなんて)そんなことは全然なくて。
こうやって地位とか名誉とか、お金ももちろんそうですけれども、結局、飾られたものでしかなくて、自分本来の気持ちとか夢とか、そういうものが全て満足感に満たされているかと言われたら、そんなことはないです。
やっぱりこれからも一人の人間として普通に生きなきゃいけないし・・・。
たまに特別な存在として、こうやっていろいろな場所に立って、座って、しゃべって、滑って。
そういうことを皆さんといろいろ共有しながら生きなきゃいけない時間も多分あると思います。
ただ、それは今しかできないことだし、いろいろな幸せ、いろいろな葛藤、そういうものを皆さんと分かち合える幸せというものを大事にしたいなと今は思っています。
(しばらくは、普通の幸せ、家庭を持つことよりも、競技者としての幸せを極め続けるかという点については)、うーん・・・競技者としてとは、言い切れないです・・・。
何になるかは僕もわかっていないし、何ができるかということはなんとなくは思い描いていますけれども、明確には何ができるかわからないですし・・・。
ただ、言えることは、やっぱりこうやって金メダルをとって2連覇して帰ってきたということが、たくさんの方の幸せになっていることは間違いないし、それができるのは僕しかいなかったということだと思っています」
と、力強いコメントと共に、羽生選手の人生のなかで羽生選手自身でしか成し遂げられないであろう生き方について熱く語ってくれました。

人生100年時代と言われる中で、羽生選手はまだ23歳。
一般的に考えたら社会人一年目の若手の年齢です。
そんな羽生選手が「まだ人生23年の自分が言うのもなんですけれども」と前置きしながらも、総じて主張していたのは『今できる全力、今の自分自身を貫くことが一番大事』というメッセージでした。

「(怪我をしてから平昌オリンピックまでの3ヵ月間は)できる時にできることを精一杯やる。
できない時はそれなりにできることをやる。それがすごく大事だな、と感じた3ヵ月でもありました」
と、総括する羽生選手の表情には、現実を受け入れながらも前進し続けることの大切さ、自分にしかない人生を歩んでいくことの覚悟と責任感がみなぎっており、年齢に関係なく真っすぐに明日を見つめて進んでいくことの意味と意義を学ばせていただいたように思います。
本当に貴重なひとときでした。

(取材・文 鈴木ともみ)

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鈴木ともみプロフィール

経済キャスター/ファィナンシャル・プランナー/日本記者クラブ会員記者。

中央大学経済学部国際経済学科卒業後、ラジオNIKKEIに入社し、経済番組の記者・ディレクター(日本民間放送連盟賞受賞番組)、キャスターを務める。
その後、経済キャスターとして独立。
各国大統領を始めとする国内外の政治家、VIP、企業経営者、エコノミスト、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は3000人を超える。
現在、テレビ、ラジオへの出演、雑誌、ニュースサイトでの連載執筆の他、経済シンポジウムやセミナー、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。
主な著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊 1728円) 『これからの経済』をテーマにした講演多数。
2014年、一ツ橋綜合財団主催『文化講演会』作家(経済部門)講演者(過去には浅田次郎氏、北方謙三氏)に選出される。