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「今が一番いい。」キルト作家・寺井ちなみさんに聞く50歳からの人生の始め方

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50歳。「これからだと思ってた。」

「50歳になったころかな。ちょっと友達とメールでやりとりしてる時に、その人が、50になったからもうそろそろいろいろまとめたい、っておっしゃって。それは、案外私の中では強い印象に残った出来事だった。私は、え、これからだと思ってたからね。」

そう語るのは東京国際キルトフェスティバルの招待作家としても活躍する、寺井ちなみさん。
トープカラーを効果的に組み合わせた、緻密な作品を得意とするキルト作家です。

現在では大型のオリジナル作品をコンスタントに発表している寺井さんですが、パッチワークキルトを始めたのは子育てがひと段落してからでした。
仕事、子育て、そしてパッチワークキルト……その時その時において人生の中で重要だと思うものを全力で楽しむことを心がけてきたといいます。
いつでも「今この瞬間」を前向きに楽しもうとする寺井さんに、Agelessな生き方をうかがいました。

専業主婦からキルト作家へ。学びへの意欲。

キルト布

寺井さんは大学卒業後、都立高校の国語教師として3年ほど勤務。その後は時折、学会の事務などの仕事をしつつ、4人の子の子育てに専念したそうです。

ただ、子育てに家事、仕事、介護と様々なことに追われつつも、常にもっと学びたい、好きなことを追求してみたいという思いを抱いていたため、末の娘さんが幼稚園に入園したのをきっかけに、パッチワークキルトを始めたのだといいます。
「ちょうど娘も幼稚園に入っていい機会だったので、自分の勉強も始めないとね。ずーっと家の中でうずうずと埋もれてしまうのはなんとなく嫌だなあっていうのがあったので、勉強しようって思ったんです。」

もともと手芸が好きで、自己流で色々な作品を作っていたという寺井さん。
パッチワークの奥深さに魅力を感じ、トープカラーのキルトで有名な斉藤謠子さんの教室に通いはじめたそうです。

最初はパターンの決まったトラディショナル・キルトから始めましたが、やがて自由な表現ができる創作キルトに魅了されていきました。
日常の出来事から刺激を受けて作品を作り、発表する……時間も労力もかかるキルト製作ですが、今やパッチワークキルトは、「大切な自己表現の場」になっていると言います。

現在はオリジナルの作品を発表していますが、今でも3ヶ月に1回は教室に通い続けているそうです。
「とても先生のような作品は作れない、でもやってみたら上手くなるかもしれない。」そんな気持ちで通いはじめて、もう20年ほどに!
先生の作品をそのまま作るわけではないけれど、デザインを見るだけでも刺激になる、そう語る姿にはいつまでも学びを得たいという強い気持ちを感じました。

いつでも今が一番いい。核となる考え方。

“花のロンド”

常に学びへの意欲を持ち、前向きに過ごしてきた寺井さんですが、大学の同級生がキャリアを積んでいく中、仕事をやめて専業主婦としての生活をすることには迷いを感じたと言います。
「仲間が頑張っているのをみるとなんかこうモヤモヤするというか。そういう、焦燥感というかそういうのがなかったわけじゃない。でも子育ての時期だと思って、腰を落ち着けるしかないなっていう気持ちでしたね。」
家庭を選ぶか、仕事を選ぶか、若い女性の多くが抱える悩みを寺井さんも経験したのでした。

最終的には、寺井さんは子育てに専念することを選びます。
当時は悩み、なんとなくモヤモヤした感情があったそうですが、一方でやはり子育てに集中するという選択はご自身に合っていたと言います。

「家で子供をきちんと育てることも社会貢献の一つ」という思いで子供たちと向き合い、時間の余裕ができた時には学会の事務の仕事もしていたそうです。
家事・子育て・仕事・介護と多くのことに向き合うのは大変ではあったものの、その時々が充実した時間になっていたのだと話してくれました。

その背景には、ご家族の大きな支えがあったのだといいます。
旦那様もお子さんも、寺井さんを応援し続けてくれ、家庭のこともキルトのことも邪魔をするようなことはまったくなかったそうです。
そんなご家族に常に感謝しながら、寺井さんは毎日を過ごしてきました。

「子育ての時は子育てで、ああこれは楽しいって思えてたし、家の事も仕事もキルトもやるのは大変ではあったけど、充実してるなって思えてた。子供たちが独立して、結構時間にゆとりが持てるようになったら、これはこれで、自分のやりたいことができる時間だって思った。だからいつでも楽しいっていうか、いつでも今がいいって気持ちね。」

この、「今が一番いい」という気持ちこそ寺井さんの核になっている考え方なのかもしれません。
年齢を重ねていくことに悲観的にならず、前向きに、ただ今を楽しむこと。
それは難しいことのようにも思えますが、「昔の方が良かったとは全く思っていない」と柔らかく微笑む寺井さんを見ていると自分にもできるような気がしてきました。

「50歳になった時、私は子育てでずーっと来ちゃったから、さあ、これからは自分の時間だって。人生の半分まで来たけど、あと半分ある!って気持ちだった。だから、長生きするつもりでいますし、したい事が自由にできる時間でありたいなって思いますね。いつでもこれからって感じ。」
子供の頃から大人しいと言われるタイプだったという寺井さん。
穏やかな語り口の中に、自分のペースを守りながら、いつも目の前のことを大切にしていく芯の強さを感じました。

これから目指したいもの。憧れの人。

“花のロンド”

最後に、これからどう年齢を重ねていきたいか、理想となるモデルをうかがいました。
「主婦のカリスマ的な存在だった町田貞子さんとか、80歳を過ぎてから青いポピーを見にヒマラヤに登った画家の堀文子さんとか、そういう情熱を持って、自分のやりたいことにつき進める人ってすごいなって思います。そんなことはとても真似できないけど、いつでも求めるというか、一つの事を追求していける姿勢みたいなものって、分野は違ったとしても憧れますね!」
ご自身では「とても真似できない」とおっしゃいますが、新しいものを恐れず、好きなものを追求していく姿勢はどこか寺井さんにも通じているように感じられました。

持ち前の向上心と今を楽しむ姿勢で、きっとこれからも寺井さんは理想像に近づいていくことでしょう。
彼女のエイジレスな考え方は、高齢化の進む現代において歳を重ねることを肯定的にとらえるきっかけとなるのではないでしょうか。

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